コラム

【笑顔の向こうに】歯科技工士の映画を歯科技工士が解説するよ

笑顔の向こうにポスター
出典元https://egao-mukou.jp/

 

(歯科業界で)話題の映画を観てきました。

この『笑顔の向こうに』は、日本歯科医師会が提唱する8020運動(80歳までに20本の歯を残すというスローガン)の30周年記念事業として製作された映画です。
映画の主人公が歯科技工士ということで、告知が始まった時点から上映されるのを楽しみにしていました。
歯科技工士が主人公となる映画は非常に珍しいというか、あとにも先にもこれだけでしょうね。

そんな『笑顔の向こうに』を観た率直な感想を、現役歯科技工士の視点も交えつつ述べてみたいと思います。

映画のあらすじと予告映像

技術が高く、容姿も端麗で“王子”と呼ばれるほどの若手歯科技工士の大地(高杉真宙)は、新人歯科衛生士として東京郊外のデンタルクリニックで働き始めた幼なじみの真夏(安田聖愛)と偶然再会する。

個性あふれるクリニックの院長(木村祐一)や歯科医師(辻本祐樹)などからの信頼も厚い大地だったが、金沢で歯科技工所を営む父親(池田鉄洋)に手がけた 義歯を見せると「だからお前は半人前だ」と否定され、同時期に義歯を提供した患者(丹古母鬼馬二)にも全く合わないと突き返されてしまう。

落ち込んでいる大地を励ましてくれる真夏とも喧嘩をしてしまい…。

患者が真に求めていることを突きつけられた大地が見つめた大切なこととは?

笑顔の向こうに公式サイトより

 

映画として歯科業界のリアリティはいかほどか?

こういった映画の評価で必ず話題にされるのが”設定や脚本がリアル“かどうかですよね。
「あんな歯科技工士いねーよ!」とか「実態が描かれていない」とか「専門用語が使われていない」とか…
まぁそんな意見も散見されておりますが。。。

日本歯科医師会が製作しているということもあって、特に歯科関係者はついつい厳しい目で観てしまうのかも。
この映画の場合、歯科業界だけのために作られているわけでもないので、一般の観客にとっては十分にリアルで理解しやすいものになっていたと思います。

しいて言えば、日常のシーンの方が”作り物感“があったような・・・
例えば妊婦さん(先輩歯科衛生士)のお腹が、押せば取れそうなほど異常に大きく見えるとか。(笑)

その妊婦さんが臨月のため産休に入るという場面で、同僚の歯科衛生士が「男の子ですか!?女の子ですか!?」と赤ちゃんの性別を聞いてくるんですが、普通だったらそんなギリギリのタイミングで聞いてこないですよね!?(汗)
そういう些細なシーンに違和感があったので、歯科医療現場の設定は逆に気にならなかったです。

仕事場の雰囲気も都会の中規模ラボと地方のワンマンラボで描かれ方が違っていて、なかなかリアルな感じでした。
小道具も「あ、これはあのメーカーのやつだ」と思えるものがあったり。
普段使っているものがデカデカとスクリーンに映ってるだけでなんだか面白いものですね。

ただ技工机がね、もうね、これしかない感があって…机って目立ちますね。
他に選択肢が無いというのは映画のせいじゃないんですけど、歯科技工士が自分たちのことを職人とか技術職とか言ってるわけだから、もっと拘りの詰まった色んな種類の技工机があっても…いいと思いません?
日本の小綺麗なラボはだいたいどこも押し並べて同じ机使ってますよね。
この映画でもそうでした。

 

 

ここから先、多少ネタバレ要素を含みます。

予備知識なしで本編を楽しみたいという方は、、、またいつか読んでください!(笑)

 

 

いろんな『向こう側』を感じられるのは歯科技工士ならでは

この映画のタイトルにもなっている『笑顔の向こうに』。
これ、どう捉えるべきでしょう。
そのまま受け取ると、笑顔の向こうにそれを支える歯科医療従事者がいますよという、歯科医療側から患者側へのメッセージのように感じられます。
そして笑顔でいられるということは、その人の実生活が質の高いものである必要があるという、歯科医療に対する責任と戒めのような意味もあるでしょう。

でもこの映画、他にも『〇〇の向こうに』というメインのテーマがありますよね。
それが歯科技工士の仕事として描かれていました。
言い換えると『模型の向こうに(?)』ですかね(笑)

主人公のお父さんは物語の序盤で「だからお前は半人前なんだ」と言い放ちます。

その真意がわからないままの主人公でしたが、一つの症例に深く関わり、患者個人と向き合うことで、技術だけが大切なのではなく、模型の向こうに生きた人間の生活があるということに気付かされるのです。
もちろん食事の好みを知るだけで劇的に適合の良い入れ歯が作られるわけではないですが、自分が作る歯科技工物にはそれを身体の一部として使う人がいるということを意識するのは大事なことです。

映画の終盤、主人公の仕事ぶりを眺めるお父さんが「患者さんのことを想像しなさい」と声をかけていますが、それが半人前から一人前の歯科技工士へと成長するための回答ということでしょう。

この映画の秀逸だった点は、歯科技工士と患者が対面しないまま物語が進み収束していった点です。
これは実際の歯科医療現場での多くの症例と同じです。
歯科技工士も患者も、それぞれが対面していないからこそ、ある存在の向こう側にあるものを強く意識することができるのではないでしょうか。

この感覚は歯科技工士以外には想像しづらいものがあるかもしれません。

 

不意を突かれた大感動シーン

歯科技工士からみたこの映画最大の見所は、丹古母さんが演じるおじいちゃんが、完成した入れ歯で初めて食事をする場面です。

娘さん手作りの煮たカボチャを口に運びながら「お母さんと同じ味だ・・・」と涙ながらに呟くシーン。

このシーンは本当に感動的でした。

正しく食事が楽しめる入れ歯が作られたことで、昔好きだったメニューを再び味わうことができるようになった。
そして亡くなった奥さんが作ってくれていた手料理の味を思い出す。
ベタな演出かもしれませんが、しみじみといいセリフでしたね。
普段歯科技工士が絶対に見ることのできない貴重な場面に立ち会えたかのような感覚を覚えました。

お互いに見えないからこそ”向こう“の存在を意識するわけで、このシーンこそが歯科技工士にとっての笑顔の向こう側でしょう。

おわりに

いざ観終わってみると、想像していた以上の映画の出来栄えに驚きました。
他の方の映画レビューには「歯科業界の自画自賛ムービー」や「歯科技工士を集めるためののPR活動」のような書き込みもありましたが、単純にそう受け止めるだけではもったいない映画です。
狙いはともかくわりと作りこまれている映画でした。

同じ歯科技工士の友人が「日本歯科医師会がこういう形で歯科技工士を紹介してくれたのはありがたい」と言っていましたが、多くの歯科技工士は同じ感想を持ったと思います。
歯科技工士だけでは実現しきれないことをやってもらったという意味でも、日本歯科医師会には感謝しています。

でもやっぱり、悔しい思いもありましたね。
一般の人から、歯科技工士が社会に必要な職業であると認知されること。それを自分たちの口から伝えられず、代弁してもらうだけでは、いつまでも弱い集団のままでしょう。

仕事を紹介する映画といえば”納棺師“を取り上げた『おくりびと』が有名ですが、あちらは『納棺師の仕事に深く感銘を受け、何としても映画化したい』という本木雅弘さんの強大な思いが爆発したからこそあれほど偉大な作品になったわけです。

映画は無理だとしても、歯科技工士が歯科技工士のために情熱を注げる。
現状を変えたいのであれば、自分たちで強い熱量を持って取り組んでいけるようになりたいものです。

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