B.O.P.T.のとんでもなく美しい症例にドン引きしたの巻。

2019年11月23,24日の二日間に渡り、大信貿易株式会社様の主催で開催されたB.O.P.T.&Prama『PREMIUM DAY JAPAN』に参加してきました!
B.O.P.T.の症例をしっかりと拝見したのは初めてだったのですが、ロイ先生の手がけるB.O.P.T.はどれも非常に美しい症例ばかりで大きな衝撃を受けました。
総勢13名の先生方によるボリューム満点の講演も見所満載で、とても有意義な東京小旅行(?)となりました。

今回の記事中にiPhoneで撮影した講演中のスライド風景が使われておりますが、メインスピーカーであるIgnazio Loi先生から自由にウェブサイトで使用していいと直接に許可をいただいておりますので、その一部をお見せしたいと思います。ロイ先生グラッチェミーレ!

B.O.P.T.ってどんな術式?

https://m-cera.jp/wp-content/uploads/2019/07/dr1.jpg

B.O.P.Tの概要を教えてくれるかな?

https://m-cera.jp/wp-content/uploads/2014/09/prof.jpg

Biologically Oriented Preparation Technique(生物学的な指向性を考慮した支台形成法)の略で、歯肉を補綴の形態へ引き寄せるプレパレーション法のことですよ。


https://m-cera.jp/wp-content/uploads/2019/12/dh3.jpg

歯肉が自由に戻るって?そんなことが可能なの?


https://m-cera.jp/wp-content/uploads/2014/09/prof.jpg

歯肉のラインを自在に操れるから完全に左右対称なクラウンを作れるっていう理論ですよ。

https://m-cera.jp/wp-content/uploads/2019/07/dt3.jpg

それって技工士にもめっちゃハードル高いんじゃ・・・


https://m-cera.jp/wp-content/uploads/2014/09/prof.jpg

そうですね!とにかく当日の様子をお伝えしますよ!

『PREMIUM DAY JAPAN』の講演内容

会場は秋葉原UDXシアター。全席テーブルとコンセント付きの広くて素晴らしい会場も満員です。
各スピーカーの演題は以下の通りです。

みっちり。
大変素晴らしい講演ばかりです。

B.O.P.T.&Prama『PREMIUM DAY JAPAN』は来年もロイ先生を招聘して開催予定とのことですので要チェックを!
ハンズオンもあるそうなので早めのご予約がオススメです。

空間さえ与えれば歯肉は戻る

B.O.P.T.ではジンジタージ(歯肉掻爬)を行うことで意図的に歯肉の出血を促し、そこに組織が回復するためのスペースを設けながらプロビジョナル製作を繰り返し理想的な歯肉のラインを作るという…大雑把に言えばそういうテクニックです。
そうした歯肉の回復は下のように天然歯の外傷でも起きます(img01)。

01.歯肉は空間を埋める

ジンジタージを行なった箇所には滲出液が溜まり、そこに血餅ができ(img02)、組織が伸びてくる(img03)という経過を辿ります。

02.出現した血餅

03.成長する組織

これには自由に歯肉が伸びるだけの空間が必要で、B.O.P.T.の垂直的な形成はそれをコントロールしやすくするとのことです。
シャンファー形成を行うと歯肉が成長する指向性が得られず可逆性もないため、フィニッシュラインのないフェザーエッジでパラレルに支台歯形成(img04)することがB.O.P.T.の特徴です。

04.B.O.P.T.の形成例

これによりセメントエナメルジャンクションならぬセラミックエナメルジャンクションを設定するというコンセプトのようです。補綴の常識からすると結構な違和感を覚える術式ではありますが、数々の臨床例報告例は非常に説得力を感じる内容でした。

さらにこのB.O.P.T.は前歯だけでなく、小臼歯にも大臼歯にも適応されます(img05,06)。

05.術前

06.術後

そもそもインプラントの場合は歯肉をどのように再生させるかが現在の歯科医療の関心事となっており、それを天然歯支台の補綴でも実践するのがこのB.O.P.T.です。

B.O.P.T.の病理学的な見地

当日は病理学分野での権威である下野正基先生(東京歯科大学名誉教授)の基調講演でもB.O.P.T.を考察されていまして、術後の生物学的適合領域における組織の新生と歯肉上皮の接着について重点的に発表されていました。
付着上皮のターンオーバーのスピードとロイ先生の症例報告の期間が概ね一致するというご指摘も興味深かったです。
B.O.P.T.では実際の形成エリアより短い位置にクラウンのマージンが設定されるため、歯肉のシーリングもポイントとなるのだと思いますが、実験的には上皮性付着は結合織性付着に変わりうるとのことです。

またジルコニアについて、低細胞毒性で高増殖能の特性を持つという点を強調しながら、補綴材料と歯肉の組織的結合について考察されていました。
この点についてはBTAテクニックなどとも多くの共通点が見出されていると思われます。

B.O.P.T.と同じコンセプトのPramaインプラント

ロイ先生が考案されたPramaインプラントについての講演もありました。
このインプラントの最大の特徴はボーンレベルにもティッシュレベルにも使える『逆ラッパ型』の形状をした歯肉貫通部(img07)です。

07.プラマインプラント(右)

この形状により埋入深度を比較的自由に設定できるメリットや、バクテリア域を骨から離すことができるメリットがあります。

このインプラントにもパラレルなアバットメントが取り付けられ、B.O.P.T.と同様にアバットメント側に上部構造のマージンという概念はありません。

完全左右対称なクラウン

ただクラウンに辺縁が存在するだけで、そのラインは歯科技工士が自由に設定するという製作方法をとります。

完全左右対称なクラウン

許可を頂いたとは言え人様の症例をいくつも紹介するのは忍びないので1症例だけ…
前列から仰ぎ見る形でスライドを撮影しているのでカメラ特有の収差(歪み)が発生しています。。。

まずは2回目のプロビジョナルの写真から。

セカンダリープロビジョナル

パピラの回復まで今一歩という感じですが、というかプロビジョナルの時点でマメロンが表現されていますね…汗

この症例のスタート時の口腔内がこちら。

初診時

歯根も破折している状態で歯肉のラインも喪失しています。

歯冠部を取り除き、残された歯根をバネ状の矯正装置で引き上げB.O.P.T.で形成を行います。

最初のプロビジョナル

プロビジョナルレストレーションを製作し、歯肉の回復を待ちます。

複数回プロビジョナルの修正を行いながら歯肉ラインとパピラを理想的な位置まで回復させてから完全に左右対称となるファイナルへと移行します。

ファイナルの製作

口腔内で歯列とスマイルラインの調和を確認します。

術前と術後

非常に美しい症例と思いますが、このときセットに立ち会った歯科技工士(Antonello Di Felice先生)が、自身が作ったクラウンの切縁の走行と内部構造の表現に満足がいかず、作り直しを申し出たということでした。
確かに…言われてみればそうですが、意識の高さに脱帽です。

そうして最終セットされたものがこちら。

最終セット

エクセレント〜〜!!

イタリア人はプライドを持ってもの作りしてますね。
Mセラミック工房にもイタリア製の機器がありまして、蓋を開けてみると同じネジを使うべきところで違うネジが使われていたり、ネジ的な別の物で代用されていたり、かなり適当な国民性かと思っていましたが、やるとこはやると言いますか…その辺のバランス感覚が優れている…のかな…?
勤勉なだけじゃつまらないですからね。

歯科技工士が思うB.O.P.T.

歯科技工士目線で気になったこと勝手に語ります。

歯科技工士の基礎力

現在の歯科治療では補綴主導というコンセプトが多く用いられていますが、このB.O.P.T.も補綴主導のテクニックになります。
それもかなりハイレベルかつ挑戦的な技工技術が要求されますね。

ロイ先生は「支台歯形成でフィニッシングラインを左右対称にするのは不可能なので、左右対称の歯科技工物を作ってその形態に合わせて歯肉を成長させる以外に方法はない」と仰っていましたが、歯科技工物でも”左右対称に作る“というのは言うは易し行うは難しです。
ゴールデンプロポーションやスマイルラインも考慮しつつ、マメロンなどの内部構造の表現や歯列とのカラーマッチングを行いながら完全に左右対称に作らなければならないのですから、そりゃ難易度は高いです。
しかもマージンの設定は歯科技工士が行うため、ある意味で自由度も与えられるので、左右対称に作れなかった場合の言い訳ができません(汗)
歯科技工士としての基礎的な技術力がもろに出るのがB.O.P.T.ではないでしょうか。

歯科医師の基礎力

一方で歯科医師の基礎力も相当要求されます。
時代の潮流と逆行する独特な形成方法ですが、歯科技工物を作る側としてはかな〜り心配な点も多々あります。

まずシャンファーを付与させないという点。
特にメタルフリークラウンの場合は、マージン付近の厚みが不足していることによって強度が相当低下しますし、脱離しやすくなります。
そういった場合は不恰好でも意図的にオーバーカウントゥアさせて製作しますが、垂直的な支えが無いのはやはり不安ですね。それもあってかロイ先生はメタルボンドがお気に入りのご様子でした。

次に垂直的な形成という点。
臨床ではたまにあるんですが、極端な縁上マージンや酒樽のような形で形成されていることがあるんですよね。
これではクリアランス以前に物理的に抜き差しできるクラウンは作れません。
テーパーを付けた3面形成をお願いしていてもこうしたことが起こるのに、B.O.P.T.だとどうなってしまうのか…うーむ。

歯科技工所に模型を送る前に、事前にしっかりとチェックを行うためのルーティーンをチェアサイドで考えて実践してもらわなければ、再形成や再印象をお願いするケースが増えてしまうかもしれません。

日本でB.O.P.T.を行う場合の課題

B.O.P.T.の成功には歯科医師と歯科技工士の強い連携が不可欠です。
歯科技工士も歯科医師が最終的にどのような目標を持っているのかをもっと理解する必要があります。
残念なことですが日本ではどうしても”歯科技工士は下請け業者“というイメージがあり、歯科医師と対等なパートナーとは言い難い関係がほとんどかと思います。
歯科技工士も積極的なコミュニケーションを避けがちですし、歯科医師もお客様のように振る舞ってしまいがちです。
双方で同じゴールを明確に設定し、お互いに意見交換できなければ正しい成果は得られないでしょう。
プロビジョナルレストレーションひとつ取っても”テックのちょっといいやつ“という認識ではなく、理想的なファイナルに繋ぐ重要なツールとして活用するためには、より緊密にコミュニケーションを取らなければいけませんね。

あとはやはりお金の問題。
医療と経済は分断して考えたいところですが、B.O.P.T.の技工には相当な手間がかかります。
イタリアやドイツ、スペインといった国々と比べて半分程度の技工料金なのに、同じ材料、同じ機械、同じテクニックというのは正直無理がありますね。
それこそ「プロビは仮歯だから500円で…」的な日本のノリでは広まるものも広まりません。

B.O.P.T.を学ぶ

繰り返しになりますが、B.O.P.T.は歯科技工士にとって自身の実力を最も発揮し得る分野だと言えます。
模刻の技術やレイヤリングの技術など、歯科技工士の醍醐味が満載なのでトライしてみる価値は十分にあるのかなと思いました。

というわけで、このふざけた歯科技工士が書くブログを読んで「うちも明日からB.O.P.T.やってみよ!」なんて言う先生はまさかいらっしゃらないはずですが、ちゃんとこのテクニックを学べる場もあります。
B.O.P.T. Japan
私もとりあえずは来年の1月のコースに歯科医師の付き添いという形で参加して参ります。
その様子は追ってご報告できればと思いますが、B.O.P.T.に興味のある方は是非どうぞ!

LINEを使って歯科技工所Mセラミック工房に直接相談できます。
歯科医師の方はもちろん、歯科技工士、歯科衛生士、学生、どなたでもお気軽にどうぞ。

公式LINEアカウントへ。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。