ラボ用CAD/CAMセレックinLabを用いたデジタル歯科技工の精度

前回の記事で製作した『適合試験模型』を使ってスキャン精度をチェックしていきましょう。

適合実験模型をラボ用のスキャナーでスキャンし、実際の臨床と同様にデザインから削り出しまで行います。
削り出し直後の状態(ジルコニアはシンタリング直後の状態)で無調整のまま実験模型に戻し、マージンへのフィットと隣接コンタクトへの強弱具合を確認していきます。

適合実験開始

Dr.カスプ
お…ついに適合実験が見れるんだね!
今回はラボ用スキャナーの適合精度をチェックしますよ。
Dr.カスプ
ぜひ口腔内スキャナーの検証もして欲しいな〜。
いいですね!でもまずはラボ用スキャナーで”合格ライン“の基準をつくりましょう!

ラボスキャナー『セレックinEos X5』の特徴

3Dスキャナー
出典:デンツプライシロナ

エムセラのスキャナーはご存知『セレックシステム』のラボバージョンである『セレックinEos X5』という機種を使用しております。
『セレック』と言えば院内のシステムというイメージが強いかもしれませんが、当所で使用しているものはラボ用にチューンナップされているものです。
名前のEOSとは『ExtraOral Scanner』の略で、口腔内スキャナーを表すIOS『IntraOral Scaner』と対する名前が付けられています。

ロボットアーム制御の5軸スキャニング

『inEos X5』ではカメラ側1軸、アーム側4軸の計5軸を使ってスキャニングされます。
特にシングルクラウンのスキャンモードでは、支台歯を45°から105°まで任意に傾けたまま全周にわたってHDRスキャンが可能なので、非常に深いアンダーカットのある症例でも正確なスキャンが可能です。

口腔内スキャナーとラボスキャナーとの大きな違いは、模型位置が固定されるので被写体とカメラの位置関係に狂いが生じない点です。
またカメラも遠くの位置から撮影できるため、ラボ用スキャナーの方が広範囲を歪みなくスキャンできます。

卓越した精密スキャン

メーカーが公表するスキャン精度は2.1±2.8μmです。
一般的な歯科用スキャナーが公表するスキャン精度が7~15μm、3Dプリンターの積層ピッチが25〜40μmであることと比較すると、試験内容の違いはあるかもしれませんがinEos X5のスキャンは高い精度が確保されていると言えそうです。

テスト用クラウンの登録

クラウン登録画面

では早速スキャン作業に入りましょう。
今回の適合実験で製作するクラウンは以下の通りです。

・14,15はフルジルコニア連結冠
・24はハイブリッドジャケット冠(保険のCAD/CAM冠)
・26はフルジルコニア単冠

*ジルコニア材料に関しては手持ちの材料の中から最も収縮率の低いものを使用します。

テスト模型のスキャン

前回の記事で製作した実験模型をスキャンし、マージンラインの設定、挿入軸、パラメーター(セメントスペース等)の設定を行います。
パラメーターは非公開としますが、使用材料や形成された支台歯の状態により適宜数値を調整しています。

歯列登録画面
inLabスキャンソフトの歯列登録画面

inLabでの歯列の水平や正中の傾き補正は、非常に操作しやすいです。

CADソフトにてクラウンのデザインを行う。

全部位のクラウンをデザインします。
ただの適合実験ですが、解剖学的な形態を作ってしまうのは歯科技工士のサガですね。

デザイン完成
CADでのデザイン完成

上顎左側第一小臼歯では隣接コンタクトの強弱具合もチェックするため、コンタクトさせたものと空かせたものの2パターンをデザインしました。

コンタクトを空かせたデザイン
コンタクトを空かせたデザインA。
コンタクトを付けたデザイン
コンタクトを付けたデザインB。

遠心コンタクトにてコンタクト強度をチェックします。
青色は接触点が近づいてきているマークで、グリーンになると接触を開始したマークになります。

ミリングマシンで削り出す。

デザイン済みのデータをCAMソフトへエクスポートして、材料を指定した後ネスティング(配置)を行いミリングマシンで削り出します。

配置している画面
データをジルコニアディスクにネスティングする。

連冠と大臼歯はジルコニアで、小臼歯のパターンAはジルコニアで、小臼歯のパターンBはハイブリッドブロックで製作しました。

小臼歯単冠の適合精度

削りだしたまま内面は無調整の状態で適合をチェックします。

適合チェック1

適合チェック2

適合チェック3

内面調整せずとも十分納得できるレベルで、全周にわたりしっかりと適合していることがわかります。
ラボでの作業の場合はここから更に内面調整を行い、パッシブフィットを目指します。

小臼歯連冠の適合精度

次に連冠の適合チェックです。

連冠の適合チェック

連結冠でも全周にわたりしっかりと適合しています。
こちらも内面調整は一切しておりません。
指先の感覚でもガタついたりも全くなく、スムーズな装着感で完璧にフィットしています。

コンタクト強度のチェック

最後にコンタクト強度をどの程度コントロール可能かを観察します。

まずはコンタクトをわざと空かせたパターン。

コンタクト空かしたデザイン

空いているコンタクト
デザイン設定と同じように空いている。

続いてコンタクトをわずかに付けたデザインパターン。

コンタクト付けたデザイン

コンタクトが付いている
デザイン設定通りの接触をしていることがわかる。

いかがでしょうか。
これほどまで思惑通りにデザインしたままのクラウンがミリングされるとは、正直期待していた以上の結果です。
毎回このレベルでコンタクト強度をコントロールできれば、研磨分やグレーズ分の厚みを計算に入れてデザインできますし、模型レスで製作しても問題のないクオリティーだと言えるでしょう。

ラボ用セレックの総評

今回行った適合試験で、セレックinLabの実力を遺憾無く発揮できたかと思います。
今回の実験では模型の支台歯の条件も良く、機械性能や材料特性を熟知した歯科技工士が全ての設計を行っています。
経験の浅いオペレーションでは満足できる結果は得られないことは強調しておきます。
特に、院内用セレックをメーカー指定のパラメーターで設定し、1Dayトリートメント向けの高速ミリングで作ったところで、今回の技工物と同等のレベルのクラウンは絶対に作れません。
質の高い歯科技工物を作るには、模型上でのトライアンドエラーを繰り返すことが絶対条件です。

おわりに

「CAD/CAMはまぁまぁ、そこそこの品質のものを安定して作り出すためのもの」などと言われたりもしますが、知識と技術を正しく蓄積させれば、従来の手作業によるキャスト法やプレス法にも劣らない精度のものが作れるということが証明できました。

CAD/CAMによる適合実験を実際に行ったことで、デジタル化を迎えた歯科技工技術は非常に高いレベルに到達していることも実感できました。
現行のラボ用CAD/CAMシステムは、完璧な状態で口腔内を再現された石膏模型やデータがあれば、ミクロン単位で品質をコントロールすることも可能です。

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