【2023年真夏版】リチウム系(強化型グラスセラミック)ブロックについて考えてみた。

セレック導入医院の1Dayトリートメントでお馴染みの材料といえばグラス系セラミックブロックですね。

グラス系セラミックブロックの加工には、注水下でのグライディング加工が推奨されているので、マシンとの相性の問題もあり、歯科技工所では敬遠されることも多いですが、デジタル加工ならではの魅力を感じさせる材料の一つです。

各ブロックの強度なども調べてみたので、簡単に見比べてみましょう。

グラス系セラミックブロックは大きく分けて2種類

各社から様々なグラス系セラミックブロックがリリースされていますが、強度の違いで大きく二つのグループに分けることができます。

一つは従来の『グラス系セラミックブロック』で、もう一つが最近注目されている『強化型のグラス系セラミックブロック』です。
歯科技工士さん向けにプレスセラミックスで例えると『従来型=エンプレス』『強化型=e.maxプレス』のような違いです。

強化型はニケイ酸リチウムを主体に、ジルコニアを添加したハイブリッド材料などが開発されています。
従来のグラスセラミックブロックの強度を、より高めた製品と認識しておけばいいでしょう。

『強化型グラスセラミック』はさらに2つに分けられる

少し話がややこしくなりますが、『強化型のグラス系セラミックブロック』は、さらに二つのグループに分けることができます。

クリスタライゼーションなどの熱処理が『必要なもの』と『不要なもの』です。
(更に細かく言うと、熱処理をやるとより良いけれど、やらなくてもいいというものもあります。)

e.max CADやスプリニティなどの、クリスタライゼーションが必要なブロックは、焼結前は歯冠色をしておらず、プログラミングファーネスでクリスタライゼーションを行うことにより歯冠色へ変化し、強度も高まります。

セレックの1Day修復に使われるブロック

勘のいい方はすでに気付かれたと思いますが、セレックで1Dayトリートメントや1visitトリートメントに取り組みたい場合、クリスタライゼーションが必須のブロックはどうしても使いにくさが生じます。

プログラミングファーネスなどの設備を用意する必要がありますし、技工物を完成させるまでの時間が少なく見積もっても40分以上伸びるためです。
製品によってはクリスタライゼーションと同時にステインやグレーズ処理が可能なものもありますが、ステイングレーズを一発で綺麗に仕上げるのは、セラミックの操作に慣れた技工士でも難しさを感じます。

クリスタライゼーション後に、研磨のみで仕上げるとしても、大きな時短にはならず、従来型と比べてブロック単価も上がるので、なかなか価値は見いだせないですね。

クリスタライゼーション必須のブロックは、しっかりと作り込むことで審美性や強度の面で価値が生まれますが、それには技工作業時間の確保が必要になり、1Dayでの提供は難しくなるでしょう。

そのため、セレックの1Dayトリートメントで使用されるのは『従来型セラミックブロック』か『クリスタライゼーション不要の強化型セラミックブロック』が選択されることになります。

強化型セラミックブロックの強度比較

以上を踏まえて、まずはそれぞれのメーカーが公表している強度を確認していきましょう。
クリスタライゼーションはグレーズなどと合わせて『熱処理』と表示します。
以下敬称略。

熱処理前 熱処理後 備考
セルトラDUO(デンツプライシロナ) 210MPa
(3点曲げ試験)
370MPa
(3点曲げ試験)
熱処理不要
テセラ(デンツプライシロナ) 400MPa
(2軸曲げ試験)
700MPa
(2軸曲げ試験)
熱処理不要
e.max CAD(イボクラール) 130〜150MPa
(3点曲げ試験)
530MPa
(3点曲げ試験)
熱処理必須
initial LiSi ブロック(GC) 408MPa
(2軸曲げ試験)
非公開 熱処理不要
スプリニティ(VITA) 非公開 530MPa
(3点曲げ試験)
熱処理必須
アンバーミル(ジオメディ) 250MPa
(2軸曲げ試験)
450MPa
(2軸曲げ試験)
熱処理必須

参考値と致しまして、ジルコニアと、保険適応のハイブリッドレジンブロック、院内1Dayトリートメント向けの従来型セラミックブロックの強度を添付します。

熱処理前 熱処理後
ジルコニア 900〜1200MPa
ハイブリッドレジン(CAD/CAM冠) 240〜280MPa
セレックブロック(従来型セラミックブロック) 160MPa

一般的には300MPaあれば臼歯部クラウンに使用可能とされているので、強化型セラミックブロックは全てその条件は満たしているようです。

『セルトラDUO』と『テセラ』に関しては、熱処理をせずとも使用可能で、処理の前後で強度を公表しています。
セレックでの使用を想定しているのが明らかですね。
内側性インレーは熱処理せずに使用可能というように案内されているようです。

強化型セラミックブロックの硬度比較

続いては表面硬さの比較です。
強度と比べると、公開されている情報が少ないのですが、参考までに。

熱処理前 熱処理後
セルトラDUO(デンツプライシロナ) 600〜700HV
テセラ(デンツプライシロナ)
e.max CAD(イボクラール) 550 590
initial LiSi ブロック(GC) 700〜(非公式)
スプリニティ(VITA) 500〜600(非公式)
アンバーミル(ジオメディ) 718 1078

参考値としてその他素材の表面硬さを下に示します。

ビッカース硬度(HV)
ダイアモンド 7,000
ジルコニア 1,300
クォーツ 1,100
ガラス 400〜700
チタン合金 270
半焼結ジルコニア 100以下
ハイブリッドレジン(CAD/CAM冠) 100以下

グラス系セラミックブロックは全て500〜1100HVの硬さがあることがわかります。
半焼結ジルコニアやCAD/CAM冠用レジンブロックが100HV以下であることと比較すると、グラス系セラミックブロックは非常に硬い素材であることがわかります。
グラス系セラミックブロックの硬さはチタン合金よりも上です。

セラミックブロックの加工

強度と硬度を検証することで、何となく見えてきたと思います。

「セラミックブロック…なかなか曲者である…」

はじめに述べた通り、デジタル加工においては魅力ある素晴らしい製品であることは間違いないです。
しかし、いざ加工しようと思うと躊躇してしまういくつかの理由があります。

加工バーの消耗が激しい

ブロックを加工するには、当然ながらミリングマシンで研削しなければなりませんが、バーの消耗度は『硬い素材』を加工する方が明らかに早いです。
しかもその差は微々たる差ではなく、かなり大きな差になります。

これは機械も素材も開発しているメーカーさえ明言している事実で、レジンブロックなら300本を加工できるバーセットだとしても、セラミックブロックはよくもっても30本程度が限界と考えられているようです。
10倍早く消耗するというのは、かなり影響は大きいですね。

技工士は半焼結ジルコニア1本を切削するための加工バーのコストを300〜500円程度で計算しているので、その1点だけ見てもコストは跳ね上がります。

スピンドルへの影響が未知数

加工バーが10倍早く消耗するということは、当然ながらスピンドルへの影響もあるでしょう。
正確なデータを取るのは困難だとは思いますが、一度の交換で数十万円もすることを思えば、慎重に構えてしまいます。

セレックシリーズのような、ガラス加工が前提のマシンや、大型で堅牢性の高いマシンであれば多少耐えられるのかもしれませんが、リスクはよく理解しておきましょう。

歯科技工士が『強度の高いセラミック製品』を安価に作れる理由

材料の単価(約4000円)も高く、消耗パーツのコスト(約3000円)も高く、マシンへの負担のリスクも考慮しなければならない『高強度セラミックス』を、技工士が比較的安価に作れるのはなぜでしょう。
簡単な話しですが、ミリングマシンを使ったブロック研削では作っていないからです。

おそらくほとんどの歯科技工士は専用のプレスファーネスを使用して、e.maxプレスやイニシャルLiSiプレスのインゴットを使った、プレッサブルセラミックスとして製作しているはずです。

この場合は多くの工程が手作業となってしまいますが、原材料コストやリスクを抑えて製作するには、現状では致し方ないでしょう。

インハウス加工とガラスブロック

セレックなどを導入してインハウス加工を目指している医院様も多くあると思います。

しかし、実際にセレック1Dayトリートメントで、歯科技工士を雇うこともなく、機材設備も最小限で…という条件で取り組むのであれば、『強化型グラスセラミック』の選択がメインとなるでしょう。
そうなった時は想定以上の金銭的コスト、時間的コストがかかってくるということも理解しておきましょう。

ブロック代金と消耗パーツのコスト、マシンの減価償却コストなどの製造原価だけでも、セレッククラウン1本作るために1万円を軽々と超えてくるかもしれません。

少なくとも「セレックは歯科技工所に外注しなくて済むので、患者さんに安く提供できますよ。」なんて安直なことにはなりませんのでご注意ください(汗)

まとめ

今回調べた限りでは、歯科技工所がマシニング加工で、不安なく採用できるブロック素材は見当たらないようでした。

歯科技工所での製作であれば即日で仕上げる必要はないので、クリスタライゼーションの有無に関してはどちらでも良いです。
クリスタライゼーション前の表面硬さが低く(理想は200HV以下)、クリスタライゼーション後の曲げ強度が高い(3点曲げ強度450MPa以上)ようなセラミックブロックであれば、シンベニアにも使える素材として、すぐにでも取り扱いたいと思いますが、グラスは一般的にも硬度が高いので難しいのでしょう。

こうして見ると、やはりジルコニアという素材の魅力は大きいです。

お知らせ

この記事でご紹介した通り、院内加工には、設備導入費や維持管理費などの金銭的な負担だけでなく、製作ノウハウの構築も必要です。

加工が困難なガラス系オールセラミックスですが、Mセラミック工房では技術検証をしっかりと繰り返し、ラボ内での加工が可能になりました。

ご相談はLINE公式アカウントからもお気軽にどうぞ。

LINEを使って歯科技工所Mセラミック工房に直接相談できます。
歯科医師の方はもちろん、歯科技工士、歯科衛生士、学生、どなたでもお気軽にどうぞ。

公式LINEアカウントへ。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。